なぜ工学研究?-工学と医学の接点とは
形成外科は身体の形を整えることを目的にします。言ってみれば身体を対象とする彫刻家であり、なおかつ建築家でもあります。
これは比喩ではありません。実際に彫刻家が木や大理石を削るのと同じように骨や軟骨を加工しますし、大工さんが柱や壁を組み合わせるのと同じように骨を分解し、組み替えます。
例えば・・・
(例1)胸のかたち の修正
(例2)耳作り
事故のため耳をなくされた方や、まれに見られる生まれつき耳のない方に対して手術を行い、耳を作ります。新しい耳は、肋軟骨(あばら骨の柔らかい部分)を彫刻してつくります(成育医療センター形成外科 金子剛 先生のご厚意による)。
(例3)骨の固定
交通事故などで顔の骨を骨折した場合、ずれてしまった骨を正しい位置にもどした上、ネジとプレートを用いて固定します。
このように形成外科医は、体の形を整える診療科です。
美しく手術を行うためには、緻密な計画をたてた上で、 それら一つ一つを着実に達成することが必要です。
具体的に言うと
- 「何が美しいのか」を知ること(目標の設定)
- どのように手術を行えば、目的とする形状を得られるのか考えること(手法の選択)。
- 結果を予測し、方法の可否を検証すること
このためにわれわれは、各種のプロジェクトに取り組んでいます。
現在取り組んでいるプロジェクトの中で主たるものを紹介します。
- 人は「美」をどのように認識するのか を科学的に分析すること
- プロジェクト1:乳房再建を美しく行うための手術デザインの解明
- プロジェクト2:身体の形状を美しく見せる因子の究明
- 身体を構成する各組織の硬さや可塑性などを知ること
- プロジェクト3:骨折の整復手術において、固定した骨片の 安定性を向上するための 研究
- プロジェクト4:なぜ骨折が発生するのかを解明するための 研究
- プロジェクト5:瘢痕・ケロイドが生じる力学的メカニズムの研究
- 手術を行うと、身体の形がどのように変化するのかを予測すること
- プロジェクト6:漏斗胸手術における、術後形態予測システムの開発
- プロジェクト7:インプラントを用いた乳房手術において、良い結果 を出すための研究
- プロジェクト8:がん切除後の欠損を伴う胸郭における、呼吸運動 機能評価に関する研究
- プロジェクト9:顔面の形成手術を安全に行うためのシミュレーション
このように、工学的な知識を応用してさまざまな研究を行うことは、手術において良好な結果を得る上で非常に役にたちます。医学―工学 学際研究はまだ新しい研究分野ですが、極めて現実的で臨床に近い研究です。